透き通るような色彩

光の絵画

4月14日まで天王洲アイルにある児玉画廊にて糸川ゆりえの絵画展「アルカディア」が開催されている。透き通るような色彩を使って光の絵画ともいうべき絵画世界を作り上げるこの作家さんは以前から注目していた。独特な色の使い方や夢の世界のような画面の雰囲気が印象的な作品だがラメを混ぜ合わせた絵の具を使うことで画面が揺らめくような不思議な雰囲気を全体的に醸し出している。

 

非日常な世界観

日頃からから書き留めている手記や夢の記憶などを反芻した時にふっと浮かぶ情景や人物をモチーフにして作り上げられる非日常的な世界観がこの作家の絵の魅力でもある。夢と現実の狭間にするっと迷い込んだような不思議な世界に輪郭の定かでない女性像が揺らめきながら現れるのだ。独自の絵画世界を貫く糸川ゆりえの絵画は見るたびみ新たなインスピレーションをくれるし今後も大いに期待したい作家さんだと思う。

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白と黒、グレーに黄色の絶妙なバランスが美しい作品だ。

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夢の中の世界のような不思議な場所に揺らめきながら現れる女性。

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色を使わずにカンバスに炭などで直に描いた作品もとてもいい。

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キャンバスに炭でドローイングした上に部分的に彩色している。

アジアから世界へ

4人のファイナリスト

寺田倉庫のサポートで開催されるASIAN ART AWARD 2018は2017年に創設され今回で2回目を迎える。選考会によって選出された4人のファイナリストの作品展が3月3日から18日までTERRADA ART COMPLEXの4階にて開催中だ。何れ劣らぬ素晴らしい作品の4人だが今回はその中から注目している女性アーティストのAKI INOMATAさんの作品を紹介したい。

 

「つくる」行為

AKI INOMATAさんの作品を最初に見たのはMAHO KUBOT GALLERYでのグループ展だったと思う。そこには透明の貝殻に入ったヤドカリの写真と小さな透明の貝殻が展示されていた。AKI INOMATAさんは「つくる」行為が人間だけのものではないことに着目して生物との共同作業のプロセスを作品にしてきたという。この作品ではヤドカリに宿である貝殻を提供することで生物との関わりから生まれる関係性を作品化している。また、透明な貝殻はよく見ると上に世界の小都市が堀上げられていて世界を貝殻の宿で移動するヤドカリを通してアイデンティティや移住などについても考えさせられる。根源的なコンセプト、面白い着想、繊細な作品のクオリティーなど実に見応えのある作品になっている。AKI INOMATAさんがファイナリストになるならないに関わらず要注目の作家さんだと思う。

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透明な貝殻の上に小さなパリが!繊細な仕事はいい作品に欠かせない。

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この貝殻の上にも細かいディテールでタイの寺院のような建物がある。

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これは中国の建物か?下にある貝殻の描写もとてもリアルだ。

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会場には水槽が設置されライブでヤドカリ観察ができる。

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こちらが透明な貝殻に入って生活するヤドカリである。

ユーカリオ誕生

質は高く敷居は低く

神宮外苑にギャラリーEUKARYOTEユーカリオ)がオープンしたというので見にいってきた。昨年11月に閉廊したセゾンアートギャラリーを前身とするこのギャラリーは若手アーティストの成長を助けると共にアートを買うことのファーストステップとしてアートの質は高く敷居は低くを目指すという。ビル1棟を使い各フロアーの特性を生かした展示を行っていく予定で3月2日から25日までオープニング企画として山口聡一と石川和人の個展を同時開催している。

 

若手作家の表現

「dimentions」と題された山口聡一の作品はポップな色彩と形の絵画的な独自の表現で平面的でもあり同時に立体的でもある作品は見るものに視覚的なブレを生み面白い。一方の石川和人は「OVERLOAD」と題した写真展を展開しているが写真を大量のインクで出力して重ねるなどのユニークなインスタレーションは迫力がある。このように若手作家の表現を思い存分楽しめる新たなギャラリーが誕生したのは今後も楽しみだ。

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「dimentions」と題された山口聡一の作品では色と形が混じり合う。

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ポップな色と形が重なり合う中立体的な側面もあって面白い。

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ブラシストロークのような形と立体に続く色彩が特徴的だ。

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石川和人は写真を大量のインクで出力してインスタレーションにしている。

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透明感のある独特の写真作品は抽象絵画のようでもある。

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12枚の作品を組み合わせた作品は色にインパクトがあった。

fleurs et papillons

渋谷西武にて開催中

渋谷西武にて3月19日まで大竹寛子個展「fleurs et papillons」が開催されている。渋谷西武の春のキャンペーンに絡めて企画された展覧会はウィンドーディスプレーや西武B館1階と8階での展示も含めてかなり大々的で作家にとっては嬉しい企画展となった。大竹さんは面識もあり今度青山のアートサロンセーヌでも個展を開催していただく予定なので新作がどういう感じかも見るために渋谷西武に見に行って見た。

 

画法は日本画

大竹さんは東京藝術大学絵画科日本画専攻を卒業後に大学院に進み最終的には美術研究博士号まで取得したという素晴らしい学歴の女流作家さんである。つい最近までは文化庁の新進芸術家海外派遣制度によって1年間ニューヨークにも滞在していたという。画法は日本画の伝統を継承しつつ表現はモダンな絵画のような斬新さで華やかな色合いの花や蝶をモチーフにしている。卓越した技術と表現力の作品は見応えもあり今後もさらに楽しみな作家さんである。渋谷界隈に行かれる方は渋谷西武に寄って是非見ていただきたい。

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金箔や銀箔も用いて鮮やかな色の蝶が飛び交う様子を表現。

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日本画の技法で描くがモダンで大胆な絵画作品も多い。

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この作品などはもう抽象画の世界だが色合いなどは日本画

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かなりのサイズの大作にも果敢にチャレンジしていた。

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丸い鏡に描かれた作品は天井から吊るして展示されていた。

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日本画に見られるような縦長のキャンバスに描かれた作品。

どこへでもこの世の外なら

抽象表現の世界

六本木のタカ・イシイギャラリーにて3月17日までクサナギシンペイの絵画展「どこへでもこの世の外なら」が開催されている。抽象画の作品だが作者はカンヴァスにスティン(にじみ)の技法で色を重ねることによって豊かで透明感のある色彩の絵画を制作する。抽象表現の世界は対象を抽象化して作品とする表現方法だがこれは非常に難しく作るものにとっては作品を抽象的な方法で描ききるタイミングをどこで終わらせるかという永遠の問題がある。

 

画面から得る印象

かつてアメリカの作家、ジャクソン・ポロックはカンヴァスを床に置いてそこに絵の具を垂らすという方法で抽象絵画を制作してセンセーションを巻き起こした。沢山の絵の具がカンヴァスに垂れている様は当時それを見る多くにとってはわけの分からない世界に映ったかもしれない。抽象画の見方は「画面から得る印象」に尽きるのだが、表現者にとってはただのめちゃくちゃなどではなく様々な表現の必然性や美的要因を感じながら描き進める表現方法となる。そこがしっかりしていないと絵は成立しないしめちゃくちゃはそのまま破綻するのである。そのコントロールが非常に難しく、また抽象的なだけにその表現の真偽もすぐにバレてしまうものだ。クサナギシンペイの抽象表現はそういう意味で美しく本物だと思うしこれからも非常に期待できる作家だと感じた。

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スティン(にじみ)の繰り返しの中に絵の本質が現れる。

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最近ではにじみの中に即興的なブラシストロークも加わった。

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様々な色が重なり合い画面構成や色相などの広がりを感じる。

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青と濃紺のコントラストの表現が美しい作品だ。

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抽象画では見たままの印象を味わい感じるものを楽しむ。

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本物の表現か否かが誤魔化せないのが抽象画の特徴である。

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様々な色や形の重なりは必然性と美意識の結果として現れる。

Lyさんの風景

白と黒とグレーの世界

表参道の交差点にある交番のちょうど後ろに新しく改装された白いビルができたがここは「OMOTESANDO B SPACE」というビルごと場所貸しをするスペースなのだそうだ。早速見に行ってみたら1階はバレンタインシーズンだからか「HI-CACAO CHOCOLATE STAND」というチョコのポップアップショップで2階ではストリートアーティストのLyさんの作品展をしていた。Lyさんの作品は以前にも見て立体作品で気に入ったのを1点購入している。白と黒とグレーで描かれる風景はストリートアートやグラフィティーアートなどに影響を受けて作り出された独自の世界だ。

 

オモハラエリア

この貸しスペース、今後どういった企画があるのか、またはどういうブランドや企業が貸し切ってイベントなどやるのかは分からないが立地としては相当いいのできっと借りるのも高いんだろうなと思う。今回Lyさんが展覧会をやっている2階のスペースはイスなどがあって休憩もできる感じだったが「OMOHARAREAL pop-up gallery」となっているので今後もアートの展示などをするのだろうか。それにしても表参道と原宿の界隈を総称して「オモハラエリア」と呼ぶとは今回初めて知りました。

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白と黒とグレーが基調のLyさんの作品はストリート系。

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Lyさんの作品によく登場する真っ黒なモンスターキャラ。

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スケーターやグラフィティーカルチャーの影響が大きい。

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人気はなく、ただ黒いモンスターキャラが暮らす架空の街。

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丸い画面に四角い街並みが広がる。モンスターはスケーターでもある。

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ここには黒いスケーターモンスターが3人も登場している。

 

奈良美智さんの30年

精神性を共有

今世紀に入ってから活躍する日本人アーティストの村上隆さんと奈良美智さん、今や二人はアーティストとしてアジアはもちろん世界中で不動の人気を得ている。その村上隆さん自身が運営するカイカイキキギャラリーで奈良美智さんをレプレゼントすることになったという。ともに躍進してきた同士として表現は異なるにせよ作家としての精神性を共有していると感じる二人の作家がこういう形で繋がるというのはアート界にとってニュースである。カイカイキキギャラリーでは3月8日まで最初のギャラリー企画展として奈良美智さんの過去30年に渡るドローイング展を開催している。今後は年内にもう1回奈良美智さんの企画展を開催するほか香港アートバーゼルでも特設ブースで奈良美智さんの作品を展示するという。

 

ドローイングとは

アートに関心がある人はもちろんだが関心がそんなにない人も奈良美智さんの作品を好きという人は多いと思う。その証拠にカイカイキキギャラリーは平日の昼間にもかかわらず大勢の人で異常に賑わっていた。奈良さんにとってドローイングとは一体どういう行為なのかという原点を振り返る展示は圧巻でギャラリー内には年代ごとにグループ分けされた様々なドローイングが壁面やテーブルの上に展示されている。奈良美智さんの表現の源であるドローイングを年代を追って見ることはその作品の魅力の謎を紐解く鍵であるような気がする。子供の頃から鉛筆1本で描くことが好きで鉛筆1本でなんでも描けていた気がすると語る奈良美智さんだが自分の中から湧き上がる思いや感情をストレートに描き出すという行為で作品を作ってきたその稀有な才能を存分に感じることができた。村上隆さんと奈良美智さんの今後の新たな展開もますます楽しみだがまずは強力にオススメの展覧会です。

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ダンボールに描かれた少女。作品には繰り返し少女が現れる。

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鉛筆だけで描かれたドローイング作品は強いインパクトがある。

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これも鉛筆だけで描かれた作品。ストレートな表現が魅力的だ。

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コミカルな表情が愛らしい少女たちが沢山描かれてきた。

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作品はダンボールや封筒など様々な素材に描かれる。

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平日にもかかわらず沢山の人が展覧会を見にきていた。