無意識の姿

 

ファッションとの出会い

神宮前にあるSEZON ART GALLERYにて朝倉優佳の個展「Figure of Unconsciousness」が7月30日まで開催されている。2014年にアートアワードトウキョウ丸の内・シュウウエムラ賞を受賞して以来、ファッションデザイナー「ヨウジヤマモト」のコレクションにアートを提供して参加、今年の初めには東京オペラシティーにて山本耀司と一緒に展覧会も開催した。抽象画というアートとファッションとの出会いは作家にとって大きなインスピレーションになったという。

 

肉体という存在

僕は特に抽象画が好きで気になっていた作家なので今回作品が見れてとても良かった。

今回は人物画だというが絵を見ると全てが抽象化されて人の体という原型はとどめていない。しかし、出発点のイメージは人体であったわけで、そこから絵を描き進めながら「肉体という存在」への抽象的かつ概念的な試行錯誤が始まるのだろう。絵も結構売れていていいことだと思ったし僕も小品ながら1点の絵を買わせていただいた。

抽象画は見るものを目で見えるものから見えないものへと誘う魔術のような力を持っていると思う。今後もコレクターの端くれとして朝倉優佳の活動に注目していきたい。

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女性の肉体だというが抽象化されてすでに原型はほぼない。

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色と線と形の戦いのような激しい筆致の抽象画だ。

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小さい作品だがまだ幸運にも売れていなかったので購入した。

天才アラーキー

死にゆく美しさ

南青山にあるRAT HOLE GALLERYにて8月31日まで荒木経惟の写真展「花幽園」が開催中だ。荒木経惟通称「アラーキー」といえば言わずと知れた天才フォトグラファーだが新宿のオペラシティーでも大規模な展覧会が開催中なのでこの夏は「アラーキーを見る夏」ということでお勧めします。電通マンを辞めフリーランスの写真家になったアラーキー東松照明森山大道などらと「WORKSHOP写真学校」の設立に参加、その後は写真家として数々の賞を受賞してきた。

 

エロスと死

アラーキーの写真といえば縛り上げられた女性や早くして亡くなった妻の写真のイメージなどが浮かんでくる。肉体のエロス、死を捉えるために映し出す儚い命の姿が生涯かけて撮り続けているテーマなのだと思う。あからさまに全てをさらけ出しそれをカメラに収めることで人間とは何か、生と死とは何かといった普遍的なテーマを追い続けているのではないだろうか。今回は息を呑むような色や質感の花々にエロスを象徴する人形のかけらやビニール製の怪獣などを組み合わせ何か匂い立つような強烈な写真を撮っている。この夏はアラーキーを見に出かけよう。

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鮮烈な色合いの花束の中に縛られた女性の人形や怪獣が。

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こちらの生け花は毒々しいが中にいる人形もちょっと怖い。

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会場のラットホールギャラリーでのレセプション風景。

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小さい方のプリントはバラで1枚15万だという。お買い得だ。

 

理想郷

 

若きペインター

812日まで白金にある児玉画廊にて大久保薫の個展「理想郷」が開催されている。聞けばまだ20代という若手作家だが僕がアートの中でも特に好きなペインティングを表現手法とする若きペインターである。彫刻や立体は自分で作ったことがないので分からないが絵は自分も描くので絵を見る時は特にそのテクニックなどを非常に興味深く見させてもらえるのである。

 

色のセンス

テクニックの前に彼の絵の主題だが男性の体をテーマとして様々な絵を描いている。

立ち小便する男性、裸の男性、酒のラベルの男性、ブルドーザーを操縦する男性などなど、様々なシチュエーションで男性が描かれる。それらを描くテクニックだが、油絵の具とアクリルを一緒に使ったっりして実に面白い質感の作品を作り出す。画面上を垂れ流れるほどの薄い絵の具で描いた上に部分的にかなり厚塗りで量と質感を感じるマチエールの力強い部分もあったりする。そしてそれら全てを統合するのが彼独自の色のセンスだ。以前から色のセンスは教えられるものではないと思うと言ってきたが彼にしてもそれは持って生まれた才能だと思う。色が冴えていなければまとまりのない絵になるであろうが実にうまく色の力で画面を引き締めている。若きペーンターの今後が楽しみだ。

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上半身裸の二人の男性の絵はかなり薄塗りの作品。

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どこかペルシャみたいな国の宮殿の中の風景を想わせる。

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珍しく男性像ではなく動物の絵だが、ラクダなのだそうだ。

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お酒のラベルの男性のイラストを絵にした作品。色が素晴らしい。

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ブルドーザーを操る男性の絵だが堂々とした姿に見える。

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草むらにて男性のヌードの絵である。厚塗りと薄塗りの共存。

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なぜか下半身裸の男性が自転車を持って立っている不思議な光景。

 

Back On The Highway

新しい文化

恵比寿にあるギャラリーALにて小林昭氏の写真展が7月23日まで開催されている。

1969年にロサンゼルスのヴェニスに拠点を構えた写真家の小林昭氏はアメリカで起こりつつあるうねりをカメラに収めた。大陸を横断しながらアメリカにカメラを向けて捉えたのは若者を中心に作られつつある新しい文化だった。学問、芸術、文学、演劇、音楽、映像、そして人々のライフスタイルまで全てのジャンルで新しい定義が始まっていたのだった。

 

1970年代アメリカ

僕自身も1970年にサンフランシスコに留学したので写真の中の雰囲気に当時が思い出されて懐かしかった。

人種や宗教、カルチャーなど良くも悪くも全てが混ざり合いその融合から凄まじいパワーを生み出すアメリカ。

近年はトランプ政権の誕生でアメリカは二分されてしまったと言われるが壮大な面積を有するこの国は絶えず近年の世界をリードしてきた。

その始まりになる1970年代の空気感が閉じ込められた写真は美しく儚くリアルである。

写真のプリントや関連書籍も売っているので是非足を運んでいただきたい。

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アメリカ合衆国の側が風にたなびく。

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1970年代の空気感を感じるショット。風が気持ち良い。

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アメリカ人にとってアメリカ国旗は重要な意味を持つ。

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ギャラリー風景、初日のレセプションは大盛況だった。

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アメリカ大陸横断を記した書籍「Back On The Highway」

Ignore your perspective 37

 

グループ展シリーズ

8月12日まで天王洲アイルの児玉画廊にてすっかりお馴染みになったグループ展シリーズ「Ignore your perspective 37」が開催中だ。シリーズ37回目なのだろうけどここまで続けているのは素晴らしいことだ。「Ignore your perspective 」とは「先入観を持たないで」というような意味合いだと思うが毎回異なったテーマを据えて作家たちはそのテーマの作品を発表するという趣向もいいと思う。今回は「立体平面空間」という挑戦的なテーマだった。

 

今回も力作揃い

絵画や立体作品、オブジェと絵を組み合わせた作品など作家たちは独自の表現で作品発表していて今回も力作揃いの展示は非常に興味深かった。先日個展を行なった関口正浩も大きなペインティングを2展出していて迫力があったが、前回の個展では作品が完売したそうで嬉しいニュースだった。今回参加している五人の作家は全員が80年代や90年代生まれでとても若いが若手作家の作品が売れるというのは大切なことだと思う。今後もこのグループ展で作家たちが表現を続け作品を売っていくことは日本のアートシーンにとって重要なことだ。

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木のパネルと布を組み合わせた作品は大胆だが儚い感じもする。

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オブジェは絵を描いてから作られる。奥の白黒の絵画は関口正浩の作品。

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作家としては絵画を念頭に崩していって立体にするのだという。

まばたきもせずに

30代の作家

天王洲アイルTERRADA Art ComplexにあるKOSAKU KANECHIKAギャラリーにて青木豊の展覧会「まばたきもせずに」が8月12日まで開催中だ。まだ30代という若い作家さんだというが独自の絵画世界を作り上げているのには感心させられた。絵画の物質的な存在を究極まで表現するために作家は様々な行程を用いてまるで金属のように滑らかで硬い絵画作品を完成させる。

 

マチエールと形

まずキャンバスを木のストレッチャーではなく板に貼りそれを着色、その上でヤスリで表面を磨き上げマスキングしてまた着色しその上にモデリングペーストのような素材で独特のマチエールを出す。勢いよく盛り上がる力強いマチエールと四角や殴り書きのようなシンプルな形の組み合わせは絶妙で絵画の存在感を浮き彫りにするような魅力があると思った。今後の活動がさらに楽しみな作家である。

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一見すると殴り描きのようだ独自の製作工程で完成する。

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カモフラージュ柄の上に踊りような銀のライン。計算された構図だ。

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ミニマリストの作品を思わせる力強い絵画作品である。

The BAR

二人展

7月17日まで渋谷ヒカリエにある8/ART GALLERY/Tomio Koyama Galleryにて「Shaping Voices,Silent Skies」展が開催されている。この展覧会は海外のアーティストを東京に招き作品制作をさせる「The BAR」と呼ばれるプログラム「アーティスト・イン・レジデンス・プログラム」の一環で実現した。今回海外から参加したアーティストはタイから参加したミティ・ルアンクリタヤーとサウジアラビアから参加したサラ・アブ アブダラの二人でそれぞれ意欲的な新作を発表している。

 

批判性を秘めた作品

ミティ・ルアンクリタヤーは主に写真やインターネット上のイメージを用いて作品を制作するが急激に進むタイの都市開発などによって変化する都市の姿やそこに暮らす人たちを題材に制作している。一方のサラ・アブ アブダラは映像作品を中心に表現活動を行う作家で絵画的思考を取り入れつつも政治的、またはジェンダーといったテーマを作品化する。いずれの作家も共通して現代社会が抱える問題を批判性を秘めながら表現に取り入れているところが興味深かった。「The BAR」のようなプログラムは海外のアーティストが東京で何を感じて作品を制作したのか見れるチャンスである。

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サラ・アブ アブダラはアニメなどから影響を受けた作品も制作した。

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タイが洪水の被害を受けた夜のひっそりとした街の風景写真。

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身体の苦悩のようなメッセージ性のあるコラージュ作品。

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これは身体の臓器などを沢山の小さなプレートに描いた作品。