幸福な絵画

初の個展

526日から623日まで白金にある児玉画廊にて井上健司の個展「Cairn」が開催されている。若い作家の初の個展だとのことだが明るくて楽しい色使い、様々なことが一つの場所で起こっているような愉快な世界観など色彩感覚や画面構成に才能を感じる。絵の具もアクリルと一緒に油絵の具も使っているようで部分的に光沢があったり薄く透き通ったレイヤー部分があったり細くて鋭い線が描いてあったりと見ていてとても楽しい。絵にはインテリアのようなシーンもあれば沢山の人や自転車が描かれた風景があったりしているが決してごちゃごちゃしていなくて奇想天外でもなくどこか夢の中のシーンのような感じで見るものを思わず楽しくさせるような幸福な絵画となっている。作家の性格もあると思うがとかく奇をてらった感じになりがちなテーマの絵をごく自然に暖かさを持って描いているのは素晴らしいと思った。初の個展にして力作ぞろいで今後も注目したい作家である。

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浜辺で手を繋ぐたくさんの人々はゆらゆら揺れて楽しそうだ。

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どこか夢の中で見たような不思議な感覚の風景画である。

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スプリンクラーだろうか。人物の服に描かれたマチスの絵柄が可愛い。

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繋がれた沢山の手と手はどこかユーモラスな感じだ。

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無数の自転車に降り注ぐ雨だろうか?細い線で見事に描かれる。

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これも手を取り合って踊る人々。マチスへのオマージュか?

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アクリル絵の具と油絵の具をうまく使い分けて描かれる世界。

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カラフルで幸福な雰囲気のインテリア。ホックニーを連想させる。

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大胆に構成された画面は絶妙なバランスで表現される。

広げられた自空

「もの派」の作家

六本木の小山登美夫ギャラリーにて5月25日から6月30日まで「もの派」の作家、菅木志雄の個展「広げられた自空」が開催されている。1960年代から70年代におきた芸術運動の「もの派」というムーブメントの主要メンバーであり70歳を超えた現在も精力的に制作活動をする菅木志雄だが1972年の最初の国際展への出展では主客二元論が主流の欧州において「これはアートではない」とまで言われた。しかし近年「もの派」への再評価によってアーティストとしての確固たる地位を築いた菅木志雄の活躍は目覚ましく世界中で展覧会を熱望される作家となったのだ。インド哲学や東洋的な思想に共鳴した独自の哲学によって石や木、金属といった「もの」同士と空間や人との関係性に対して様々なアプローチを仕掛けながら「もの」の持つ存在の意義を顕在化するような制作活動を続ける菅木志雄にとって新たな表現への情熱は尽きることがないのだと思われるが今回の展示も新作を含み素晴らしいので是非ギャラリーに足を運んでいただきたい。

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空間にある「もの」が互いに絶妙なバランスで共鳴し合う。

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キャンバスのような四角い木の枠に木材が配置されている。

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木の枠に重なる木材などの配置が面白いリズムを生む。

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「もの」の存在感、在りようが見事なまでに表現される。

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石を並べる作品も数多く非常に哲学的な世界観を感じる。

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70歳を超えても制作活動への情熱は盛んだ。

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規則的に壁面に配された木とそれを囲む空間の関係性。

カラー・シャドウ

2箇所で同時開催

六本木にあるペロタン東京にてダニエル・アーシャムによる新作個展「カラー・シャドウ」が開催されている。この展覧会は渋谷のNANZUKAにおいてもペロタン東京の個展を補完する形での展覧会「アーキテクチャー・アノマリーズ」が同時開催されている。「Fictional Archeology・フィクションとしての考古学」というコンセプトでの一連の作品を発展させた形の今回の展覧会でも火山灰や水晶など様々な素材を作品として来たアーシャム独自の「滅びゆく遺産としての現代文化」が象徴的に作品化されている。今回は新たな作品素材として初のブロンズ作品もお披露目されたがギャラリー内を彼の作品でいっぱいにして作り上げた展示にはアートフェアなどで単体の作品を見るのとは違ったダイナミックな世界観が感じられた。ダニエル・アーシャムはポップカルチャーを継承しつつ新しい表現を作品化する作家として注目すべき作家だ。

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鉱物で形作られたくまのプーさん。滅びゆく文化遺産なのか。

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ダニエル・アーシャムの作品は建築とも深い結びつきがある。

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考古学的な見かけを装った作品はポップで面白い。

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クレーターだらけの死んだ星?の地球儀なのか。

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えぐられたような壁面のと浮かび上がるアニメのシェープ。

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写真で見るとさらに壁がえぐられているようだがだまし絵だ。

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ところどころえぐれた柱にバックパックが掛かった作品。

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ギャラリー内すべてを使っての展示は迫力があった。

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壁に埋まっていくような不思議な壁掛け時計。

Secret garden

新しい日本画

僕もディレクションに携わっている南青山にあるアートサロン「セーヌ」にて日本画大竹寛子さんの個展”Secret garden”秘密の花園に咲く花の香り」が5月19日から6月16日まで開催中だ。東京藝術大学/大学院において日本画の博士号まで取得した経歴の大竹さんだが日本画家というよりも日本画という伝統的な手法で現代アートを制作している作家と説明した方がいいのかもしれない。彼女の絵は新しい日本画として斬新だが絵画制作以外にもライブパフォーマンスやファッションやインテリアブランドとのコラボレーションなど幅広い活動をしていて常に挑戦を続ける意欲的な作家と言える。今回は「セーヌ」での個展のために花をテーマに据えた作品を描き下ろしてくださったが、金箔や銀箔を使って顔料をニカワと混ぜて描くという日本画の伝統技法を用いつつもその表現は新しく日本画の持つ可能性を広げるような素晴らしい作品になっている。普段はアポイント制だが木曜日のみパブリックデーということでスペースが解放されているので興味のある方は是非足を運んでいただきたいと思う。

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銀箔の上に彩色された花は輝くような美しさを放つ。

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日本画の持つ様々な可能性を用いて新しい絵画を作り上げる。

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アートサロン「セーヌ」の内観。中央にはゆったりとしたソファ。

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秘密の花園の花は匂い立つような妖艶さで迫ってくる。

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日本画の伝統的な素材である顔料の青色がとても鮮烈である。

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花園に飛び交う沢山の蝶が丹念に描かれていた。

Dawn Chorus

凄い写実画

神宮前にあるGallery38にて5月17日から7月7日までロマーン・カディロンの個展「Dawn Chorus」が開催されている。一見写真展かと思ったらなんと全て手で描いた精密な写実画だと聞いて驚いた。しかし、確かにそれは写真にしてはどこか温かみがあるというか機械的な感じがしない。だがかなり近づいて見ても炭で描かれたドローイングであるとは思えない不思議なリアリティーがあるし信じがたいような技術だと言える。フランス出身の作家は日々アトリエで主題を分析し尽くしそのあらゆる多様性を抽出したいという欲求をドローイングという形で表現するのだという。それにしてもここまでの完璧な写実をするのは大変な作業だと想像できるしもはや描くという行為が瞑想のような域に達しないとここまでのドローイングは描けないと思う。静寂の中に光と影を落としながら佇むドローイングには唯一無二の迫力があるので是非実際に見に行って欲しい展覧会だ。

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石膏のモデルを見ながら精密に描き出されるドローイング。

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光と影を見事に描ききっているのが素晴らしいと思う。

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モデルの石膏の顔面像。だが作品は石膏デッサンのレベルではない。

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グレーのトーンのドローイング。もはや瞑想の境地に入っている。

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複雑なイメージを見事に描ききっている。凄いテクニック!

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オープニングレセプションには多くの人が訪れた。

「今と古ゝに」

5年半ぶりの個展

5月9日から6月9日までMIZUMA ART GALLERYにて山口藍の個展「今と古ゝに」が開催されている。近年は海外での作品発表が続いたそうで実に5年半ぶりの新作展となっている。「とうげのお茶や」で暮らす遊女たちの姿を通して独特な感性の作品を様々な方法で作り上げた展覧会は見応えがある。漫画チックに描かれる女性の姿は美しくてどこか切ない感じもするが古風なようでいて実に現代的な雰囲気もするのは不思議な世界観である。書や和歌、着物や紋様などの日本文化に対して作家独自の解釈を加えた模写は創造的で面白い。今回の作品は作家のトレードマーク的な「ふとんキャンバス」にだけではなく和紙や板、貝殻、陶版などの素材に描き出されそれらがギャラリー内に工夫を凝らして配される様も色とりどりといった感じで素晴らしかった。日本の美意識を独自の表現で現代に再提示する稀有な作家として今後の活動もさらに楽しみである。

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面白い形の木材に描かれた美しい女性像。妖艶な感じがする。

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キセルを持った女性像。どこか中性的な魅力のある人物画だ。

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大きくて角の丸いキャンバスに描かれた不思議な雰囲気の女性達。

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装飾的な美しさと抽象的な美しさも感じられる絵である。

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文様や髪の毛が見事にパターン化された面白さが感じられる。

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この絵などはまさに抽象絵画のようである。色合いが美しい。

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女性作家にはどこか身体的な状態を描く作家が多いと思う。

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様々な素材に描き出された作品は見応えがあった。

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壁面に飾られた和紙の作品。周りには達筆な文字が。筆が立つ。

レン・ミンガン展

中国の若手作家

MAHO KUBOTA GALLERYにて中国の若手作家レン・ミンガンの個展が6月9日まで開催中だ。中国では「ポスト80’S」世代と呼ばれるこの作家の世代のアーティスト達は前の世代のアーティスト達に目立った社会状況を直接反映するようなアプローチが少なくなったという。それに変わって「ポスト80’S」世代の特徴は彼らが10代を過ごした中国社会の文化や経済の変化をポジティブに捉えた上で伝統にとらわれない自由でパーソナルな表現をすることだ。キャンバスに紙を貼って色彩した後にカッターで切り込みを入れてイメージを描くというレン・ミンガンの表現手法は試行錯誤して作り上げた独特のもので繊細かつ大胆な印象を受ける。中国では作品を欲しい人のウェイティングリストができるほどの人気作家だというが作品が放つシンプルだが唯一無二のパワーと独特な魅力を感じるとそれも不思議ではない。

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テーブルにグラスと溢れたシミ。シンプルだが手が込んでいる。

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流れ落ちる水の感じをカッターで切りとって表現している。

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リピートする白鳥。昔の未来派の作品をどこか彷彿とさせる。

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カードのクィーンは切り取られた部分とそうでない部分が面白い。

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キングも同様にカットの部分のニュアンスが絶妙である。

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多くの若者が詰め掛けたレセプション。新世代のパワーを感じる。